障害の重い10代の子どもを親元から手放し施設に入れた母親から教えられたことがあります。家族で一緒に生活していたが重い障害のために毎日手をかけた温かい世話が出来なくなりやむなく親子離れての生活になったそうです。母親としてもっと愛情をかけてあげたいが充分な世話は無理と感じ施設に入れ、そこから養護学校に通い始め数ヶ月が経ったところでした。電話で「先生、なぜ一緒に生活している時に『厳しさとほめる』ことをもっとしてあげられなかっただろうかと考えてしまい自分は病気になってしまいました。
この子は18歳までしか施設にいることができない、18歳になったら家に引き取らなければならない。その時この子は自分である程度生活できるようになっているだろうか。先生、なんでもっと今までほめてあげていなかったか、ほめる場面がいっぱいあったのに悔しい。
先生がいつも言っていたほめることが自立させるための基本をやれなかったことが情けない。また、厳しさが問題と教えられました。多くの人からこの子は出来ないから仕方ない、わからないからこれでいいとすべて許されたり、放任されたりしまうという生活が続いてしまうことに今、疑問を感じています。
学校や施設で本当にこの子のために叱ってくれて、そして出来たときをほめてくれる人に出会いたいと心から願っています。しかし、厳しさだけの人、その場限りを過ごせば良いという人をみているとわが子のように愛してくれる態度とは程遠く、差があり、心が苦しく・悲しく・辛くて病気になってしまいましたと涙・涙の言葉が続きました。
この子が18歳になった時、どのように家族で一緒に生きていくかを考えると生きるためのルールを少しでも身につけ、嫌なことに出会って乗り切る力が必要と願っています。時々、家庭に帰ってきた時『こんなにも出来ることがあった、出来たときいっぱいほめてあげたいです』といった電話がありました。
そこで「ぜひ、一つで良いから○○片づけできたね、△△やれるようになってすばらしいと自信つけてあげて、そして、たくさんのことを要求しないで具体的にほめて共感すること、人からほめられることで自信をもちます。一つ自信つけばそれが自分で出来た喜びから自立に結びつきます。
『厳しさ』についても母親だけが「○○して」と叱ったり、注意するのでなく父親も兄弟も同じような態度を一つに持つことで身につきます。家族の誰かが許すのでなく、全員が約束を守ることです。しかし、そのとき厳しくするのは『貴方の将来のために必要ですよ』『貴方を心から愛していますよ』『いつも見守っていますよ』と言う気持ちと愛する態度が大切になります。又、時々具体的に『○○チャン・君・サンのこと大好きだからね』と言葉をかけながら肩に少し触ったり、身体に触れたり、手を握ったり、つないだりする肌のぬくもりによって自分は愛されているから父や母、そして兄弟の言葉をじっと聴く態度となります。
この家族を通して周囲の人々の言葉を聴く態度が育ち、人とかかわることが身につき社会的発達が促されます。
例え重度の障害があっても自分は周囲から愛されていると感じ、温かい雰囲気の中にいることで生きる喜びを与えられます。
このようにわが子が社会の中で生きていくためには、親としてどのようにかかわったら良いか、悩み・悲しみ・苦しみがいっぱいあります。しかし、そばにいるだけで幸せを味わうこともあります。今年も多くの方と一緒に困難を乗り切る知恵を考え、子どもたちに生きる力を少しでも身につけることが出来れば幸いです。
園長 飯田 和也