東海学園大学 飯田 和也
母親と入園前に子育てについて話す時、「お母さん、今はそれで良いんだよ」と認める事と「質問をしたくなる雰囲気」を作り出すように配慮する事で安心してこの園に子どもを預ける事ができるという気持ちに結びつきます。
根拠は、多くの母親は自分の子育てに不安があり、この子育ての方法・仕方に問題ないか確める事が出来ない状況が多くあります。夫が忙しくてゆっくりと聴いてくれない・核家族で話し相手が少ない、周囲に友達が少ない、食事の量や偏食について・寝かせ方について・トイレットトレーニングについて・言葉が遅いようで心配だが本当に良いのかといった知識が自分は少ないことなどがあります。
そのような時に、最初から「お母さん頑張ってね」「お母さんなら出来る」「そのやり方は子どもに害を与えるからダメ」と頭ごなしの対応では、様々不安感をもっている母親は「自分のことを聞いてくれないで決めつけられる」と心を開きません。
現在不安感を抱いている時に、共感してくれる人が一人いる事で安心に結びつく場合があります。例えば「生まれて間もない時大変でしたね」「今、お母さん、自分の身体の調子は如何ですか」「睡眠はお母さん十分取れていますか」「今、一番辛い時ですね」と母親の辛いときを言葉で言い表す事のできない心情を理解して共感することから始めたいものです。
それも母親のためにじっくりと腰を落ち着けて、温かい雰囲気を出す事でこの先生なら心を開く事ができるという態度に結びつきます。
そして、最初から子育ての失敗と感じているようなことを問いかけるのでなく「今の○○チャンのいい所はどうですか」とわが子を受け入れている事、認めている事を意識させてあげる事で「わが子って、こんなにも可愛いんだ」と言う自覚する場を造ってあげたいものです。
最初わが子の可愛さを受け止められない・気づかないとき、「寝ている時の寝姿、最高でしょう」といった言葉から始めると、「先生、寝ている時は最高に可愛いです」といった言葉が出てきます。そこで、「半年前を思い出したら、言葉が少し話す事できるようになったね」「ヨチヨチからしっかりと歩けるようになったね」「まねできるようになったでしょう」「お母さんの姿をよーく見ているでしょう」「○○出来るようになって嬉しいでしょう」と大きくなった事を見つけ・思い出させる事で温かい雰囲気が出来ます。
ここで母親になった喜びを与えられる事で心を開きます。心を開く事で相談したいという気持ちになり、「実は先生、言葉が遅いんです」「トイレがうまくいっていないのです」「好き嫌いが激しいので困っています」「友達と遊べなくて困っています」といった不安や悩みを打ち明ける場に結びつきます。
母親は最初から相談しません、この先生なら自分の辛さ・苦しさを理解してくれそうだという相手を見つける事から始めます。そのような気持ちの時に、何とか悩みを解消してあげようとか、がんばらせようという強く上から目線の雰囲気では心を開く事に結びつかない場合となります。
事例 言葉について A
三歳前後になって言葉が出なくて心配している母親への対応として、「家庭でどのような言葉を話していますか」と問いかけると「はっきりと言っている事が理解できません」といった返事があります。母親の近くにいる子どもの言葉を聴くと「△・△、□□、・・」といった発語でした。そこで「おじぎできてわかったよ、有難う言えたね」「・・チャン、かわいいねえ。上手に滑り台すべれるね。気をつけて階段のぼれてすごいね」と子どもをほめると、アレと言う感覚でこちらを見るのでした。
入園のころははっきりと発音が出来ない状況で、二週間後の母親との面談の時でした。最初はニコニコと笑顔だけで話すこともなく、近くにいた子、そして一週間も経つと拙い言葉で「えんちょぉてんてぇ」とはっきり言えなかったのが二週間も登園していると、「園長先生」と正確に言えるようになっていました。
また(鯉のぼりを作ったのを持って園長先生、これ出来たというように「見て、」という態度で持って見せに来ました)このような園生活の状態を見ると、母親は家庭で「先生の事、本当に好きなんですね。「大好き」と言う事が判ります。」
ここで「自分のこと受け入れ・聴いてくれる人・大好きだからかかわりたくなる」と言う態度で話したいという心が湧いてきていますね。お母さんもお父さんもぜひ聴いてあげる態度・大好きというふれあいを多く持って欲しいですね。二週間でこの子はこんなにも言葉と人間関係が変わってきましたね,と安心をさせるための触れ合いを参考にして下さいと説明しました。
根拠
自分のことを受け入れてくれる態度の大人や世話してかわいがってくれる友達には瞬時に子どもは、人の行動や表情を判断して心を開きますよ、お母さんの受け入れ方として「可愛いと思って見つめてあげてください」「話しなさいという態度では押しつけられ、やらされている感覚となります。
自分でしゃべれてよかったという時と場を認め・受け入れる態度により発語は伸びる」というやり方の大切さを説明しました。保育場面から発達する姿を気づかせられる事で自分の子どもの愛し方を理解し実践に結びつけることになります。保育者として入園の頃の記録を丁寧にとり言葉と人間関係が発達していることを分析する事が重要になります。
事例 B 言葉ノートより
三歳児で発語がはっきりしない・言葉が少ないケース
三歳の誕生日になっても言葉の発語が少なく、理解語は少しずつ増えてきたがこれからどのように触れていいかという悩みについて、保育場面だけでなく母親に示し、説明した。具体的にどのように発語を伸ばしたらいいという場合の対応として、三歳児で最近一ケ月間の発語について母親に「家庭でしゃべっている発語の記録をしてください」
「分からない言葉もあります、はっきりした言葉もあります、すべて記録してみてください」と話しました。最初、一週間の言葉を夫と記録しはじめると父親は(こんなにも話せるようになっているのか)とびっくりしたそうです。記録を見ると「ぱぱ・ママ・トイレで(出た)・痛い・見て・やだ・ジジ・ババ・・・」と発語の他に「パパみせて・パパどうぞ・ママ見て」と二語文が出ていますと記録を見せてくれました。
ここで一年前は全く考えられなかったですね50も出ていました。聴いてくれる人がいるから話したくなる、言葉をしゃべらせようではない、また、パパ大好きで「パパはじっくりと聴いて遊んでくれる」ので二語文として発語がありますね。「パパ見せて」「パパどうぞ」とパパとのやりとりが出来ていることを見つけ説明しました。
親が「何を話しているか」を記録するには「子どもの発語」を一生懸命聴かなければなりません。子どもは自分の言葉を聞いてくれる両親がいることを認識します。母親は、丁寧に記録する事でこんなにも話す言葉があると驚き、わが子が可愛くなります。
すると、もっと聴きたいという感覚になり、さらに聴く態度が変化します。この変化で子どもは聞いてくれる母親と父親がいる事でさらに話したいという意欲に結びつきます。言葉のキャッチボールができ、心の交流になり温かい愛の雰囲気が親子に出来上がるのが「言葉ノート」の利用になります。
子どもに対して心配することも大切ですが、あなたの言葉が伸びる能力を信じて愛していますと言う態度となるには、半年・一年前の発語を記録していることで今日、ここまで発達した事を見つけることができます。
しかし、今日の隣りや近くの子どもの発語と比較すると、できていないと悩み・嘆き・悲しみに落ち込みます。保育者としてその子自身の能力を比較する生き方を気づかせるのが発達を大切にしたプロの指導になります。
このように母親に具体的に成長・発達する個所を気づかせることで情緒が安定します。「大丈夫・大丈夫」「出来ているので安心して下さい」と言う触れ合いでなく、はっきりした発達の姿を示し・分かりやすく説明出来ることが子どもを可愛いと感じ愛する態度を育てる保育者になります。